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世界貿易機関(WTO)

世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)は、1994年4月にマラケシュで終結したウルグァイ・ラウンドにおいて合意された諸協定を実施、運営、管理する枠組みとして設立された国際機関であり、「世界貿易機関(WTO)を設立するマラケシュ協定」の発効に伴い、1995年1月に設立された。
従来のガットは、法的根拠を有しない事実上の国際機関であったが、WTOは、上記協定を明確な法的根拠としており、多角的貿易体制を支える制度的基盤が整備されたといえよう。
WTO協定は、その附属書として、ウルグァイ・ラウンドの結果作成された協定がすべて添付されている。このように貿易ルールについて定める諸協定をすべて附属書に取り入れ一つの国際約束としてまとめることにより、これらの諸協定の統一的な運用を確保するための枠組みが提供されている。
WTOは、従来のガットがモノの分野の貿易のみを所掌していたのに村し、ウルグァイ・ラウンド合意ではサービス、TRIPS(知的所有権の貿易的側面)等の新しい分野を含む幅広い分野について規律が策定されたため、その所掌が拡大されることとなった。また、従来のガット体制下に比べ、紛争解決手続の強化・改善が図られた。
WTO協定の加盟国になるためには、WTO協定の附属書1から3に掲げられた多角的貿易協定(モノ、サービス、知的所有権、紛争解決手続及び貿易政策検討制度)をすべて実施しなければならない(これをシングル・アンダーテイキングという。)。従来のガット法体系の下では、東京ラウンドで策定された非関税措置に関する数多くの協定類のほとんどを開発途上国が受諾していなかったために、同じガット加盟国であっても、適用される権利・義務の範囲が国によって異なるという変則的な状態にあったが、WTO体制の下においては、この状態は改善され、原則としてすべての加盟国が同一の権利・義務関係に立つこととなった。

WTOの加盟国は、2016年7月現在で164ヵ国・地域となっている。
以下、WTOの設立経緯、WTO設立協定の内容、機構等について簡単に紹介したい。

1.WTO設立の経緯

WTOは、1989年末、ルジェロ前WTO事務局長(当時イタリアの外国貿易大臣)がガットの機能強化等のため新機構設立を提唱したこと(世界貿易機関構想)に端を発し、EC内部でその設立構想について検討が進められてきた。また、ECとは別に、カナダのクロスビー国際貿易大臣が、メキシコにおけるウルグァイ・ラウンド関係非公式閣僚会合(1990年4月)及び米国における四極貿易大臣会合(1990年5月)の場でその創設を提唱した。さらには、1990年6月に開催されたウルグァイ・ラウンドの「ガット機能の強化」に関する交渉グループ非公式会合において、ECからWTOの設立に関する提案が行われた。
ECやカナダの提案は、「サービス等の新分野をも含むウルグァイ・ラウンド結果の効果的実施やガット機能の強化等のためにWTOといった新たな国際機関を設立すべきである。」というものであった。
しかし、この提案に基づき新機構の設立を積極的に押し進めようとするECやカナダに村し、米国や我が国の対応は、機構面の整備の必要性については基本的に賛成するが、ウルグァイ・ラウンド交渉の実質面の交渉が先決であり、新機構設立の検討により実質面の交渉が軽視されるべきではないというものであった。このような主要国の考え方を反映して、1990年7月のヒューストン・サミット及び1991年7月のロンドン・サミットの経済宣言では、ウルグァイ・ラウンドが成功を収めることにより多角的貿易体制の制度的強化が必要になる点に言及し、WTOの設立はウルグァイ・ラウンド終結時に検討されるべきであることが合意された。
こうして1991年秋までは、機構面の整備よりもまず実質面に関する交渉を進めるべきとの考えから、ラウンド交渉の場ではWTOの設立についてはほとんど議論されなかったが、秋以降、ラウンド交渉の最終段階を迎えて議論が本格化し、ECとカナダの共同協定案や事務局案をベースに具体的な検討が行われることとなった。そして、この検討結果を踏まえて、1991年12月にダンケル事務局長が提示した最終合意文書案(いわゆるダンケル・テキスト)にWTO協定案が盛り込まれることとなった。
1992年に入ってウルグァイ・ラウンドが4つのトラックに沿って交渉を継続していくことが合意され、WTO協定は、同年2月以降第3トラック(法的整合性の検討グループ)で詳細に検討が行われた。この頃には、当初WTOの設立に慎重な態度を示していた米国は、ウルグァイ・ラウンドの交渉成果の全てを受諾する国のみをWTOの参加国とすることにより、各国が自国にとって都合の良い一部の成果だけをつまみ食いすることのできない仕組み(いわゆる「フリー・ライダー」の防止)とする観点から、WTOの設立に積極的な立場を示すようになっていた。また、我が国も、WTOの設立に関する最終的立場は未定であるとしつつも、交渉には積極的に参加していた。その結果、最終合意文書案の提示後、ウルグァイ・ラウンドの交渉成果はWTOを通じて実施することが当然の前提として議論が進められ、ウルグァイ・ラウンドの各種合意についてもWTO協定に附属させ、その発効規定をWTO協定に一致させることや各種合意に関連する委員会の設置をWTO協定に委ねること等の調整を経て協定案文が策定された。このような作業の終了を受けて、1993年12月15日に開催された貿易交渉委員会において、WTOの設立について実質的合意が成立した。

2.WTO協定の概要

WTOについては、ウルグァイ・ラウンドにおいて策定された「WTOを設立するマラケシュ協定」(以下「WTO協定」)において、その所掌、役割、組織などが具体的に規定されている。以下、主要な規定の概要を説明する。

(1)WTO協定の前文

WTO協定の前文において、協定の趣旨が述べられており、その内容はガット協定前文に規定されている考え方を基本的に継承するものとなっているが、新たに、貿易自由化努力に当たっては環境問題にも適切な考慮を払うべきことを明記した。これは、国内の環境保護に対する主張の高まりに配慮して、米国やECが環境問題の重要性について協定の前文に規定すべきとの主張を行ったことから、その旨が盛り込まれることとなったものである。

(2)WTOの所掌(第2条)

WTOは、ガット協定及びウルグァイ・ラウンドで合意された諸協定等について加盟国間の貿易関係を処理するための共通の制度的枠組みを提供する。具体的には、WTO協定の附属書1~4に掲げる各種協定をその対象範囲とする。ここで、附属書1~3に掲げる諸協定(これを「多角的貿易協定」という。)については、WTO協定と不可分の一体をなし、全ての加盟国を拘束することとされている。つまり、モノ、サービス、TRIPS等の各協定からなる多角的貿易協定については、シングル・アンダーテイキングが加盟国に義務づけられている。
なお、1947年ガットの下で特定国のみを対象として締結されていた民間航空機貿易に関する協定、政府調達に関する協定、国際酪農品取極、牛肉に関する取極についても、附属書4としてWTOの対象範囲に含まれることとなるが、これらの協定については希望する国のみが受諾すればよいこととなっており、シングル・アンダーテイキングの対象外となっている(国際酪農品取極及び牛肉に関する取極は1997年12月末をもって廃止された。)。

(3)WTOの役割(第3条)

WTOは、WTO協定及び多角的貿易協定を管理・運営するとともに、加盟国間の貿易交渉の場を提供する。また、WTOは附属書2に掲げられた紛争解決了解及び附属書3に掲げられた貿易政策検討制度を管理する。また、WTOはIMFや世界銀行等の他の国際機関と適宜協力することが明記された。

(4)WTOの組織(第4条)

従来のガットで年1回開催されていた総会にかわり、WTOでは全ての加盟国の代表で構成され、WTOの最高意思決定機関である閣僚会議が少なくとも2年に一回開催されることとなっている。
また、閣僚会議の閉会中は、その機能を一般理事会が代行することとなっている。また、紛争解決了解及び貿易政策検討制度に基づいて、紛争解決機関や貿易政策検討機関が設置されている。
なお、一般理事会の下部組織として、附属書1に掲げるモノ、サービス、TRIPSの各協定を管理する理事会が設置され、さらにその下に従来のガットの各委員会に相当する機関が設置されている。
このほか、従来のガットにおいても設置されていた貿易開発委員会や行財政委員会、また新たに貿易と環境に関する委員会や地域貿易協定委員会等が設置されている。

(5)他の機関との関係(第5条)

WTOは、前述のとおりIMFや世界銀行等の他の国際機関と協力関係を結ぶこととなっているが、その対象は、政府間の国際機関のみならず、非政府組織(NGO)をも含んでいる。具体的にはWTO協定において、一般理事会がWTOに関連した事項に関して、これら非政府組織と協力するために、適切な取極を結ぶことができる旨規定されている。

(6)WTO事務局及び事務局長(第6条)

WTOには事務局長を長とする事務局を設置することとし、事務局長は閣僚会議により任命される。また、事務局長の権限、職務、任期等を定める規約を閣僚会議によって採択し、これに基づき事務局長が事務局スタッフの任命を行う。事務局職員の職務や待遇については、事務局長が決定する。さらに、事務局の公平・中立性を確保するため、加盟国が事務局長及び職員の責務の国際性を尊重し、その職務の遂行に対して影響力を与えようとしてはならない旨が規定されている。

(7)意思決定(第9条)

従来のガットにおいては、協定の有権解釈など加盟国の共同体であるガットとしての意思決定は、原則として加盟各国のコンセンサスを得ることによって行われてきた。
すなわち、決定が行われる総会等の会合に出席しているいずれかの国からも決定案について公式の反対がない場合には、その提案はコンセンサスを得て決定されたものとみなされる。このような意思決定の方法は、ガット協定に規定されているものではなく、あくまで慣行として行われてきた。協定上は加盟国全体としての意思決定は、総会等において一国一票の投票権のもとで原則として過半数の多数決により行うこととされているが、実際には投票による決定を行わず、コンセンサスによる意思決定の慣行が維持されてきた。
なぜならば、加盟国数の拡大とともに一国一票の投票権の下での意思決定では、国際貿易体制の実態を反映することが困難なものとなってきたからである。つまり、世界貿易においては、米国、EC、日本などの主要国が圧倒的なシェアを占めており、多角的自由貿易体制を維持するためには、これら主要国の意見が反映される必要があるが、単純な多数決では必ずしもこれが実現されるとは言えない。世界貿易において大きなウェイトを持つこれら主要国を抜きにしてガット体制が存続しえないのは言うまでもないことであり、このことから、ガットにおいてはコンセンサスによる意思決定の慣行が維持されてきた。
このような背景のもと、WTOにおいても、原則としてガットにおけるコンセンサスの意思決定の慣行が踏襲されることとなった。ただし、コンセンサスによる決定方式のみの場合には、一方国の反対により意思決定がなされないことから、各国が自国に都合の悪い提案に対して拒否権を発動することにより、意思決定方法として有効に機能しなくなるという問題がある。このため、WTOにおいては、コンセンサスにより意思決定ができない場合には、閣僚会議や一般理事会において、一国一票の投票権のもとに原則として投票によって決定されることとなった(ECについてはEC加盟国数と同じだけの投票権を有するものとされている。)。
ただし、①協定の有権解釈及び②ウェーバー(従来のガット協定において、加盟国の3分の2の多数の承認を得ることを条件にガット上の義務を免除するもの)の承認についてコンセンサスが得られなかった場合の意思決定方法については、その意思決定が多数意見をもって容易に行われることを排除するため、より厳格に全加盟国の4分の3の多数をもって行われる。

(8)附属書

WTO協定には附属書1~4として、ガット協定や東京ラウンド協定類などのこれまでに策定された多角的貿易協定の改定されたものや、サービス貿易協定、TRIPS協定などのウルグァイ・ラウンドにおいて新たに策定された協定、更には、政府調達に関する協定などの少数国間で締結される協定が添付されているが、法的にはこれらは全て新協定である。
つまり、ガット協定や東京ラウンド協定類などの既存の協定の改定されたものについても、WTO協定に附属されるものは、ウルグァイ・ラウンドの合意結果を盛り込んだ別の新しい協定として生まれ変わることになった。
このことから、ガット協定に関して、次のような大きな意味が生じることとなった。

①ガット1947とガット1994の法的区別

1947年10月30日に作成されたガット協定(ガット1947)とWTO設立協定の附属書1Aのガット1994は法的には別のものということになる。この点は、WTO設立協定第2条4に両者は「法的に区別される」旨が明記されている。このことは、WTOに加盟している国と加盟していない国との間で、非常に大きな意味を持つものである。なぜならば、両国間のガット関係は、ガット1947においてのみ維持されており、WTO加盟国がガット1947から脱退した場合には、両国間のガット関係は断ち切られ、ガット上の権利や義務が発生しないこととなるからである。このことは逆に、ガット1947の下での義務はウルグァイ・ラウンドの交渉結果によって変更されないこととなり、ガット1947を脱退しないWTO加盟国は二重の義務が課されることとなる。このような二重の義務が存在するなかで、ガットからWTOへのスムーズな移行を図るために、移行期間中は、①WTO加盟国は、WTO加盟国となっていないガット1947締約国に対して、関税引下げ等のウルグァイ・ラウンド合意を適用しないことができる、②WTO加盟国は、ガット1947に適合しない場合でも、WTO設立協定に適合した措置をとることができる、等を内容とした経過措置が設けられた。ガット1947が1996年1月1日をもって終了したことに伴い、ガット1947とガット1994が併存するという問題は解消された。

②ガット1994の確定的な適用

ガット1994は、ガット1947の規定とともに、これまでに採択された協定の改正や条文の解釈を盛り込んだが、「ガット1947の暫定的適用に関する議定書」は盛り込まなかった。このため、両者の大きな違いは、暫定的な適用となっていたガット1947に村し、ガット1994の適用は確定的であるという点である。
すなわち、ガット1947の暫定的適用に関する議定書や加入議定書に規定されていた祖父条項(加入時点の国内法令と合致するガット上の義務のみ履行する旨の規定)は撤廃されることとなったので、現在祖父条項によって維持されているガットに違反する国内措置は撤廃又は改正する必要がある。
ただし、米国のジョーンズ・アクト(外国で建造又は改造された船舶に村し、米国の領海又は経済水域の航行に使用すること等を禁止した法律。これは、ガットの内国民待遇義務に違反している。)については、米国が政治的に維持することを強く主張したため、唯一の例外として、一定条件の下でガット1994においても引き続き維持することが認められ、その旨が附属書1Aに明記された。

WTO加盟国・地域一覧(アルファベット順)

WTO設立協定の受諾済の国・地域(2016年7月現在:計163ヵ国・地域)

 

A、B、C

アフガニスタン※、アルバニア、アンゴラ ※、アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン、アルメニア、オーストラリア、オーストリア、バーレーン、バングラデシュ ※、バルバドス、ベルギー、ベリーズ、ベナン ※、ボリビア、ボツワナ、ブラジル、ブルネイ、ブルガリア、ブルキナファソ ※、ブルンジ ※、カンボジア ※、カメルーン、カナダ、カーボベルデ、中央アフリカ ※、チャド ※、チリ、中国、コロンビア、コンゴ ※、コスタリカ、コートジボワール、クロアチア、キューバ、キプロス、チェコ、コンゴ民主共和国

 

D、E、F

デンマーク、ジブチ ※、ドミニカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エジプト、エルサルバドル、エストニア、EU(欧州連合)、フィジー、フィンランド、マケドニア、フランス

 

G、H、I

ガボン、ガンビア ※、ジョージア、ドイツ、ガーナ、ギリシャ、グレナダ、グアテマラ、ギニア ※、ギニアビサウ ※、ガイアナ、ハイチ ※、ホンジュラス、香港、ハンガリー、アイスランド、インド、インドネシア、アイルランド、イスラエル、イタリア

 

J、K、L

ジャマイカ、日本、ヨルダン、カザフスタン、ケニア、大韓民国、クウェート、キルギス、ラオス ※、ラトビア、レソト ※、リヒテンシュタイン、リベリア※、リトアニア、ルクセンブルグ

 

M、N、O

マカオ、マダガスカル ※、マラウイ ※、マレーシア、モルディブ ※、マリ ※、マルタ、モーリタニア ※、モーリシァス、メキシコ、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、モロッコ、モザンビーク ※、ミャンマー ※、ナミビア、ネパール ※、オランダ、ニュージーランド、ニカラグア、ニジェール ※、ナイジェリア、ノルウェー、オマーン

 

P、Q、R

パキスタン、パナマ、パプアニューギニア、パラグアイ、ペルー、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、カタール、ルーマニア、ロシア連邦、ルワンダ ※

 

S、T、U

セントクリストファー・ネーヴィス、セント・ルシア、セントビンセント、サモア ※、サウジアラビア、セネガル ※、セーシェル、シエラレオネ ※、シンガポール、スロバキア、スロヴェニア、ソロモン諸島 ※、南アフリカ、スペイン、スリランカ、スリナム、スワジランド、スウェーデン、スイス、台湾、タジキスタン、タンザニア ※、タイ、トーゴ ※、トンガトリニダード・トバゴ、チュニジア、トルコ、ウガンダ ※、ウクライナ、アラブ首長国連邦、英国、アメリカ合衆国、ウルグアイ

 

V、W、X、Y、Z

バヌアツ ※、ベネズエラ、ベトナム、イエメン ※、ザンビア ※、ジンバブエ

 

 

(注)※:LDC(least developed country)=後発開発途上国